機関誌「非破壊検査」 バックナンバー 2009年6月度

巻頭言

「ラジオグラフィを支えるマイクロフォーカスX線」特集号刊行にあたって  

 X線を用いる非破壊検査の分野ではここ数年で見ると,産業構造の変化に同調してマイクロ・フォーカスX線を用いる技術の進歩が最も活況を呈している。マイ クロ・フォーカスX線源が登場しはじめた1980年代に現在の進歩を予測することはかなり難しかった。ミニ・フォーカスX線があたりまえのように用いられ ていた時代であり,最も小さいX線焦点寸法は1mm内外であった。確かにマイクロ・フォーカスの数十ミクロンの焦点寸法は魅力であったが,X線量が少ない こと,微小焦点寸法を発揮するための調整の難しさ,動作の安定性の欠如等,多くの課題があり,X線ラジオグラフィの一翼を担うことは到底無理なように感じ たものである。現在ではそれらの問題の多くは解決され,大いに利用されるようになった。
 X線管は真空容器中で電子を加速してターゲットに衝突させて制動X線を放射するが,従来の常識は一度封じた真空容器の真空はX線管の寿命を全うするまで 破らないというものであった。マイクロ・フォーカスX線源はこの常識を覆し,真空を破って寿命を迎えたフィラメント,及びターゲットを交換できる開放型を 基本としている。そのことによる弊害がなくはないが,内部電極の交換によって半永久的とも言える長期間使用を可能にしている。これはX線応用装置にとって 画期的なものであり,X線源として使う人の支持を得る大きな要素になっている。
 マイクロ・フォーカスX線の検査対象は画像のボケが少ない特徴を生かせる携帯電話,PC,各種液晶パネルや記憶装置等である。そこに実装される半導体, チップ部品,二次電池など部品レベルの検査や解析は拡大率の大きな透視画像や,CT(Computed Tomography),及びトモシンセシス(Tomosynthesis)の断面画像,三次元情報が望まれている。自動車関連でも従来の機械的な要素に 加えて,エンジンや車体に組み込まれた各種センサからの情報を判断・制御する計算機制御や電子情報システムのウエートが高まっている。車種によっては電 子,情報系のコストが自動車全体の50%を超えるものもあり,非破壊検査,解析にも電子系ユニットや部品への適用が重要になってきている。それらの用途で は従来のミニ・フォーカスX線よりX線幾何系で拡大した画像のボケが少ないマイクロ・フォーカスX線が威力を発揮する。
 また,X線ラジオグラフィによるデジタルエンジニアリングは検査や解析から一歩踏み込んだ“もの作り”の源流に用いられるようになってきた。高い分解能 を要求される微小構造の物体形状を得る“X線三次元顕微鏡”的な用途にも,マイクロ・フォーカスX線が有効である。
 X線ラジオグラフィでは検査精度,X線透過能力,検査の処理能力等の検査目的に応じてX線源を選定するが,利用可能なX線源はミニ・フォーカスX線発生 装置,回転陽極(rotate anode)X線発生装置,マイクロ・フォーカスX線発生装置,及び直線加速器(ライナック:linear accelerator)のほぼ4種類である。高周波電界で電子加速を行うライナックを除くと,X線源の焦点寸法の大きさからマイクロ・フォーカスとミ ニ・フォーカスに分類できる。その焦点寸法の境界はデジタルで決まっているわけではないが,習慣的に0.1mmをかなり下回ったものをマイクロ・フォーカ スと称している。また,真空容器中の内部電極を交換できるか否かで開放型と密閉型に分けることができる。ミニ・フォーカスX線管はすべて密封型であり, ターゲット固定で長時間動作を重視する固定陽極型と,短時間ではあるが大X線量を放射できる医療用の回転陽極型がある。これらの分類を解説の「マイクロ・ フォーカスX線源とその応用技術」に「X線装置の形式」としてわかりやすく示しているので参考にされたい。
 ラジオグラフィにおける画像の鮮明さは空間分解能,SN比(Signal-to-Noise ratio)でほぼ決まる。空間分解能はX線焦点寸法に起因する画像のボケとX線検出器自身の画素寸法が支配的である。SN比の向上にはX線フォトン数の 多さとX線検出器の捕捉効率が重要である。マイクロ・フォーカスX線管は焦点寸法を小さくするためにターゲットに衝突させる電子流の面積を微小に絞り込む 必要がある。その電子流の持つエネルギーの大部分がターゲットで熱になるため,ターゲットが溶けないように電子流を制限する。この制限はX線フォトンの量 を少なくすることにつながり,焦点ボケが少なく空間分解能が優れている反面,画像SN比を低下させる弱点になっている。このことから,マイクロ・フォーカ スX線の応用装置では用途によってX線焦点寸法とX線出力のバランスを考えて選定すること,及び画像SN比改善のために画像のデジタル化と画像積分処理は 欠かせない要件である。
 ターゲットに入射した電子はターゲット金属内で広がることがわかっており,マイクロ・フォーカスX線管の焦点寸法を微小化することは限界がある。これら の課題を含めて更に性能向上を目指して様々な研究開発が行われてきた。本特集ではマイクロ・フォーカスX線の応用技術を概観したうえで,マイクロ・フォー カスX線源の技術動向をまとめた。
 マイクロ・フォーカスX線の技術は今後も進化をつづけ,X線ラジオグラフィ全体の底上げに資するものと考える。本特集がそれらの一助になることを願うものである。

*特集号編集委員 藤井 正司

 

解説 ラジオグラフィを支えるマイクロフォーカスX線

マイクロ・フォーカスX線源とその応用技術
    藤井 正司 東芝ITコントロールシステム(株)

Micro Focus X-ray Source and its Application Technology
Masashi FUJII Toshiba IT & Control Systems Corporation.

キーワード マイクロ・フォーカスX線,X線透視,トモシンセシス,マイクロCT



1. はじめに
 X線応用装置は医用診断装置の分野で超音波や磁気等を用いる新たなモダリティが現れても常に30%台をキープしているといわれる。正確な統計データはな いが,非破壊検査の分野でもX線を用いた検査は全体の1/3程度を占めているのではないかというのが筆者の印象である。
 産業分野ではここ数年でマイクロン・オーダの分解能を発揮するマイクロ・フォーカスX線を用いる応用技術の進歩が著しい。日本の産業構造が重厚長大型か ら軽薄短小型に変化してきた経緯と同調しているといえる。対象は携帯電話,PC,各種液晶パネルや記憶装置等がその代表的なものであり,そこに実装される 半導体,チップ部品,二次電池など部品レベルの検査や解析は拡大率の大きな透視画像や,CT(Computed Tomography)の断面画像が望まれる。それらの用途では画像のボケが少ないマイクロ・フォーカスX線が威力を発揮する。
 自動車は国内産業で大きな影響力を持つが,機械的な要素は勿論,各種センサからの情報を判断・制御する計算機制御,及び電子情報システムの取り込みが大 きな技術課題になっている。いきおい非破壊検査,解析にも電子系ユニットや部品のウエイトが高まっている。また,検査や解析から一歩進んだ“もの作り”の 源流に応用されるデジタルエンジニアリングにもX線ラジオグラフィは用いられている。図1にマイクロ・フォーカスX線応用装置の応用分野を示すが,ほぼ全 産業分野に使われている1)。
 ここではマイクロ・フォーカスX線源とその応用技術について述べる。

 

 

マイクロフォーカスX線源の最新技術動向
    平野 雅之  浜松ホトニクス(株)

Latest Technology Trend for Microfocus X-ray Source
Masayuki HIRANO Hamamatsu Photonics K.K.

キーワード 非破壊試験,放射線,工業用X線装置,拡大撮影,マイクロフォーカス



1. はじめに
 マイクロフォーカスX線源(以後MFXと略す)はX線管の焦点寸法がマイクロメートル(μm)オーダーと,極めて小さいことから,X線非破壊検査の分野 で被検査体内部の微小欠陥などの拡大透視を実現し,さまざまな場面で活用されてきている。筆者らは1992年に焦点寸法が10μmの密封型MFXを日本で 初めて開発し,以後性能の改良を行ってきた。本稿ではMFXの最新技術動向について述べる。

 

 

投影型X線顕微鏡のこれまでと今後
   齋藤  泰/南  勝利/甲斐 廣海/代田 畊平/矢田 慶治  (株)東研 X線開発部

Projection X-ray Microscope, Until Now and in the Future
Yasushi SAITO,Katsunori MINAMI,Hiromi KAI,Kohei SHIROTA
and Keiji YADA X-Ray R&D Dept. TOHKEN Co., Ltd.

キーワード 非破壊検査,高分解能投影型X線顕微鏡,電界放射電子源,磁界重畳型電子銃



1. はじめに
 半導体デバイスやMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)をはじめ,最近のナノテクノロジは性能向上と同時に微細化,多層化の点でめざましい発展を遂げている。それに伴って,検査装置にも様々な 要求が出てきている。これまでは,試料をカットした断面を電子顕微鏡で観察する方法が主流であったが,破壊検査であるためどうしても真実を見ているとはい えない部分があった。そこで最近X線検査装置による非破壊検査が注目を集めている。しかし,電子顕微鏡と違い電子をターゲットに当ててX線に変換するX線 検査装置は,ターゲットでの電子からX線への変換効率が1%未満と極めて低く,装置として十分な明るさがとれないため分解能の点で問題があった。これに対 応するために筆者らは,高輝度大電流電子源の開発,高精度磁界重畳型電子レンズの開発等を行うことにより,現在,投影型X線顕微鏡では世界最高分解能の 40ナノメートルの装置開発に成功している。これは,シンクロトロン放射光を用いたX線顕微鏡の分解能30ナノメートルに匹敵するものである。一方で観察 対象物の微細化や軽元素材料に伴って吸収コントラストが得られにくくなる傾向にある。この問題を解決すべく長波長X線を利用する方向でコントラストの改善 と分解能の更なる改良を進めている。分解能は一番重要なファクタである。医学で言えば,いかに早期の小さな癌を見つけられるかが重要であることを考えれ ば,おのずと工学の世界でもいかに小さな不良を非破壊で発見できるかにポイントが置かれる。不良が見逃されて市場に製品が出回ってからでは手遅れになって しまう。そこで,X線顕微鏡の開発にあたり,分解能を重視してきた。以下に示すように常に投影型X線顕微鏡の分解能では世界の最先端を開拓してきている。

1999年 世界で初めて1μmを切る分解能0.4μmの投影型X線顕微鏡を製品化(電子源にLaB6を採用)1)
X線源型式:TX-300 装置名:TUX-3000W
2001年 量子効果を利用した電子源の実験に成功。(スーパーチップ)
2003年 分解能0.1μmの投影型X線顕微鏡を製品化(自社製熱電界放射電子源の採用)2)
X線源型式:TX-500 装置名:TUX-5000F
2005年 空間分解能150nmのCT検査装置を製品化(高精度ステージの採用)3)
X線源型式:TX-300 装置名:SS2011
2008年 分解能40nmの投影型X線顕微鏡を製品化(現在世界最高分解能,高精度磁界重畳型電子銃を採用)4)
X線源型式:TX-510 装置名:TUX-5000FS

 

 

マイクロフォーカスX線管(開放管)の原理と構造
    山田 幸一 メディエックステック(株)

Principle and Structure of Micro Focus X-ray Tube (Open Type)
Koichi YAMADA Medixtec Japan Corporation

キーワード X線管,開放管,マイクロフォーカス,X線装置,X線源



1.はじめに
 X線源には密封管型および開放管型そしてミニフォーカス型からマイクロフォーカス型まで,管の形態や焦点寸法に応じて各種の装置が実用化され販売されて いるが,その中でも最も高い高解像度を実現した開放管型160kVマイクロフォーカスX線管(図1)について原理と構造を説明する。
 ガラス製の真空管と同様の製法で真空を密封した密封管は製作に特別な設備を要するが,真空装置を使用する開放管は真空チャンバ等の機械加工が主体のため 小規模の加工設備でも製作が可能であるのと同時に,開放管に必要な真空ポンプや高圧発生器などの付帯装置も市販されており真空チャンバとの組み合わせるこ とでX線管を製作することができる。
 X線装置の心臓部であるマイクロフォーカスX線管の原理や構造に興味の有る技術者の方々の手助けになれば幸いである。

 

 

論文

高分解能X線CTによる多孔体の三次元構造およびインプラント中の新生骨の解析
   水田 安俊/水野 峰男/橋本 雅美/池田  泰

Three-Dimensional Analyses of Porous Structures of Ceramics and New Bone
Formation in Porous Ceramic Implants by High-Resolution X-ray CT

Yasutoshi MIZUTA*, Mineo MIZUNO*, Masami HASHIMOTO* and Yasushi IKEDA*


Abstract
3-dimensional structural analyses of porous ceramics have been studied using high-resolution X-ray CT. Various porous bone ceramics were imaged by a micro-focus X-ray CT, and then reconstructed as 3-dimensional voxel images. After binary processing, the pore structures of the CT images were extracted and the volume of each pore was measured, which gave the histogram of pore size distribution. Some artificial bone ceramics were embedded in the body of rats and rabbits for several weeks. Several weeks after the embedding operation, the ceramics were extracted from the animal bodies and imaged by the CT, which gave the images of the newly formed bone in the bodies. After binary processing, the volumes were measured and the relationship between the pore structure and new bone formation was discussed.

Keyword X-ray CT, High-resolution, Porous ceramics, 3-dimensional structural analysis, Implant, Artificial bone, Bone repair



1. 緒言
 マイクロフォーカスX線を用いた高分解能X線CTは,ミクロな構造の三次元可視化と構造解析が可能であり,光学・電子顕微鏡では得られない内部を非破壊 観察・計測でき,学術・産業・医療の広範囲な分野で利用が広がっている。X線CTは医療で欠かせない診断技術であるが,産業用としても透過撮影の限界を超 えて,撮影技術と計算機技術の発達に支えられて,進歩してきた。特に,医療用ではCTの高速化が追求されてきたのに対し,産業用CTでは高分解能化が最も 重要な特性として,追求されてきた。X線の発生点の寸法が,ミクロンからさらに微細なサブミクロンにまで開発されることにより,一層高分解能のCTが実用 化されつつある1)−5)。
 この様な高分解能のCTを用いることにより,微細な気孔構造を有するセラミックス等の多孔体の構造解析が可能になった。セラミックスは元々多孔質な材料 であったが,構造用材料として強度を重視するようになり,欠陥すなわち気孔ができる限り少なく,また,その大きさも小さい材料が追求されてきた。しかし, 近年の傾向として,ミクロな多孔体構造を積極的に利用する開発が盛んになりつつあり,水や空気の浄化のための環境用浄化フィルタ,排ガス処理触媒担持体, 燃料電池電極などの多孔質体は自動車エンジンや水浄化,食品製造に不可欠な存在となりつつある6)−9)。
 医療に於ける骨欠損を修復する人工骨も,この様な多孔質セラミックスの一種である。骨は元々,コラーゲンと呼ぶタンパク質とハイドロキシアパタイトと呼 ぶリン酸カルシュウムの複合材から成り立っている。形態的には皮質骨と呼ぶ外側容器にあたる骨と,骨梁と呼ぶ線・棒・板状の骨が複雑に絡み合った三次元構 造の海綿骨から成り立っている。骨の修復材としての人工骨は,血流の観点から,その多孔質構造が重要である。そこで,本研究では高分解能CTを用いて,多 孔質セラミックスのミクロな気孔構造を三次元的に可視化し,気孔体積,気孔率,気孔寸法とその分布,気孔間連結部の寸法とその分布を測定した 10)−12)。また,多孔質セラミックスを動物骨内に埋入し,セラミックス内外に生成した新生骨の高分解能CTによる評価を検討した。
 今回,これらの研究成果について,3-D画像を作製し,また,構造解析データの計算を行い,内容をまとめて報告する。

 

 

 

 

     
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